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アラムナイ活動及び研修レポート

野口医学研究所Children’s Hospital of Philadelphiaエクスターンレポート

  高橋卓人

 

はじめに ?謝辞?
この度、野口医学研究所のエクスターンとしてフィラデルフィア小児病院(CHOP)で研修をさせて頂きました。研修の申請では予想外の苦労に見舞われましたが、野口医学研究所の浅野先生、掛橋さん、Sunyobiさん、Kennyさん、CHOPのKingさんのご尽力を賜り予定通りに研修が開始できました。また研修中はCHOPのBallantine先生、Hickeyさんに特にお世話になり、私のために他部署と交渉して頂き、様々な有意義な研修をさせて頂きました。そして、私の所属施設の同僚や野口医学研究所のスタッフの方々など、私を今回の研修に送り出して頂いた皆様に、この場をお借りして深く感謝を申し上げますとともに、プログラムの更なる発展と臨床留学を夢見る同志の一助になることを願って研修の報告をさせて頂きます。

 

自己紹介 ?私と臨床留学、そしてエクスターン研修?
今回の研修の経験を語る上で、まず私の経歴と研修に至るまでの経過を紹介させて頂きたいと思います。
全ての始まりは、私の恩師であり臨床留学を経験されている先生より、米国の優れた研修制度の話を聞いたことでした。現実を知らず、多感な学生であった私は、「アメリカで臨床研修を積めば優れた医者になれる」という単純な憧れを抱き、猛烈に勉強をして医学部在学中にUSMLE step1 & ?step 2CK & step 2CSに合格し、初期研修の修了後に渡米しようと考えました。しかし医師として働き始めて、単なる憧れではない現実的な渡米の意義を考えた末、日本の小児医療の発展に貢献することを最終目標と考えて、小児科研修を終えた卒後6年目に渡米する方針としました。
そして今、時は満ちて卒後5年目となり、臨床留学の夢への第一歩を踏み出すため4ヶ月後には米国マッチングに挑戦します。しかし、これまで日本の研修に専念してきた私は、医師として米国の診療を見たことがありませんでした。そこで今回、少しでも米国での臨床経験を積みたいと考えて、期待と不安を胸に初夏のフィラデルフィアの街に降り立ちました。

 

英語の壁 ?現場で要求される英語力?
日本では充実した研修をしてきた自信があり、意気揚々と乗り込んだ私でしたが、待っていたのは圧倒的な英語の壁でした。私は帰国子女ではなく、英語の基礎は中学、高校での授業と受験英語のみでした。USMLE の勉強を通して医学英語のReadingには慣れて、医学生時代の1年間のカナダ滞在を経てstep 2 CSに合格できる程度にSpeakingとListeningも上達しました。その後も日本での多忙な研修の傍らで細々と英語学習を継続し、英語力は“日本人としては上級”というレベルであったと思います(最終TOEFL: R 29, L 28, S 20, W 25)。
Speakingが苦手であることは自覚していましたが、いざ現場に入ると実践的なListening能力も圧倒的に不足しており、米国人同士の英語が全然聞き取れないことにショックを受けました。カンファなどでの明瞭な話し方は聞き取れますが、2-3人が同時に話し出すと付いて行けなくなり、小さな声や不明瞭な話し方になると全く分かりませんでした。3週間の滞在中に少しは慣れましたが、最後までListeningには苦労しました。
Speakingに関しては、自分のペースであれば言いたいことは伝わりますが、聞き返されることも多く、何よりListeningが十分でないと会話が難しくなります。1対1なら自分のペースで会話が出来ますが、5-6人のグループで自分だけが付いて行けないと会話に参加すること自体が難しくなります。
問題ないと思っていたReadingに関しても、米国人と比べると2?3倍の時間がかかるため、書面を見ながらの議論になると全く付いていけません。また、ListeningをしながらのReadingになると、明らかに理解力が低下することを実感しました。
Writingに関しては、今回はあまり必要とする機会が無かったため、英文メールの作成に時間がかかる程度で大きな問題はありませんでした。
英語力の不足は深刻な問題であり、医学知識なら対等に渡り合える状況でも、議論のスピードに英語力が付いていかず、結果的に理解していないように捉えられてしまうことは悔しかったです。またobserverとしては、短期間に周囲と良好な関係を築けるか否かが、研修内容の充実度にも大きく影響してくるので、その点でも英語力は極めて重要であると感じました。

 

研修内容 ?Observerという立場?
CHOPでのエクスターンプログラムは、observerとして病棟チームに配属され、回診やカンファに参加すること以外は全くの白紙です。病棟での具体的な研修内容や、皆がカルテ記載などの個人行動に移って暇になってくる午後の予定は、自分で交渉して決めなくてはいけません。Observerは一人で何も出来ずレジデントの協力が不可欠ですが、自分を担当するレジデントが決まっている訳ではないので、好意的に相手をしてくれる人もいれば、全く相手にしてくれない人もいます。
私の英語力では集団の中でのコミュニケーションには苦労しましたが、好意的なレジデントに頼むことで、新入院患者が来る時に呼んで貰い、また診察にも一緒に回らせて貰うことが出来ました。また、supervisorやcoordinatorに頼んで、提携しているprimary careのクリニックの見学や、医学生のシミュレーションや発表会へ参加をさせて頂きました。
決まったプログラムが無い状態でのobserverは立場が弱く、“臨床経験”と言える経験を積む事は難しいのが現実です。ただし自分の交渉力と周囲の好意次第で、研修の幅が広がられる可能性はあると感じました。しかしそんな状況下で、英語力は足らずチームにも馴染めずに何も出来ないでいる時は、本当に自分の無力さを痛感しました。

 

日米のレジデントの違い ?講義重視と現場重視?
「米国は教育システムが素晴らしく、日本は個々の努力での学習が素晴らしい。」という話を聞いたことがあります。ここでは、私なりに日米の違いを考察したいと思います。ただし、米国の研修に憧れている私の評価であり、主な判断材料は”3週間のCHOPのobserver” と “2年間の東京の小児病院の後期研修&2-3ヶ月の東京の一般病院の小児科研修”というバイアスがあります。
まず日米では医師教育を行う土台が大きく異なります。米国では膨大な医療スタッフ・事務スタッフを確保しており教育に費やす人員も多いです。そのため、米国の指導医は時間的にも精神的にも余裕を持って教育に専念することが出来て、レジデントはコ・メディカルの充実により自らの手足を動かす機会が少なく時間に余裕があります。そのため、午前の回診は3-4時間かけて教育的に行われ、昼には食事付きの全体での勉強会が1時間あり、さらに週3回は午前中に30分の全体での勉強会があり、午後も指導医がチーム内で約1時間のレクチャーをすることがあります。そして勤務時間内にそれだけの学習の時間を確保していても、当番の人以外は17時頃に帰宅します(!?)。また細部まで徹底された院内マニュアルがあり、多くの分野で超専門家の医師も充実しているため、診療上の悩み事を自分で必死に調べる必要性も少ないようでした。
一方で、日本では人材が充実していないため、指導医もレジデント(後期研修医)も忙しいです。採血・ルート確保、検査の鎮静、検査や外科手技の付き添い・見学など、米国では他者が担う仕事をレジデントが担当します。回診は診療上での指導が中心となり、総論的な内容は少ないです。レジデント全体での勉強会を勤務時間内に行うことは通常は難しいです。さらに必要に迫られた予習・復習、疑問解決のための文献検索で夜遅くまで病院に残ります。
これらの違いはレジデントの臨床能力の違いとして反映されます。米国では、講義や座学の時間が多いので、教科書的な知識(幅広い鑑別診断、病態生理など)が豊富で、レジデントが後輩にレクチャーをするなど教育者としての能力も高いです。日本では、現場の経験に基づいた学習が多く、実践的な知識・技術に秀でており、文献検索による問題解決や自己学習の能力が高いです。
しばしば日本の医学教育では「無駄に思える雑用でも何らかの勉強になる」という態度が賞賛されます。しかし、米国では医師以外にも出来る仕事は他の専門職に任せ、その代わりに医学の専門家を育成するための効率的な教育に時間が割かれるため、教育システムとしては米国の方が洗練されていると言えます。しかし、非効率でも責任感を持って自主的に行う学習は、効率的で受動的な学習に勝る可能性があると思います。そして臨床医に必要となる能力は所属する社会によって異なるため「日米のどちらのレジデントが優秀か」という単純な議論は出来ないと言えます。
こうした教育制度の違いから、米国臨床留学で新たに学ぶことは多く、それは翻って日本の教育制度を学び直すことにも繋がると思います。しかし、米国の教育は基本的には米国で活躍するための研修であり、日本での“飛び級”的な活躍を約束するものではありません。臨床留学は素晴らしい可能性を与えてくれると思いますが、それ自体はゴールではなく、可能性に溢れた自由な環境で何を為すかが重要だと思います。“どこに何年行ったか”ではなく、“何を学んできて、何を還元出来るか”、と常に考えて進んで行くことが必要だと思います。

 

終わりに ?フィラデルフィアの街から?
フィラデルフィアは独立宣言と合衆国憲法が調印された都市で、独立直後は米国の首都でもありました。250年前まで英国の支配下にあり、150年前まで奴隷制が存在していた米国の歴史に触れると、「自らの人生や国家の選択を自らで決定する」という、米国の重んじる“自由”と“独立(自律)”の尊さと意義が理解されて来ます。フィラデルフィアの市街地を散策していると、歴史的な建築物や古い街並があって歩いているだけで楽しくなり、疲れたら緑の溢れるきれいな公園でゆっくり一休みをすることも出来ます。数ヶ月前には記録的な厳冬で吹雪に襲われていた地方ですが、快晴に恵まれた初夏の街にその面影は無く、街を行き交う人々が心から喜びを享受している様子は眩しいほどでした。私は少し離れて一人その様子を眺め、厳冬を乗り越えて迎えた今年の初夏の喜びは例年以上なのだろうかとぼんやり考えていました。
思えば米国臨床留学もまた、日本の医師にとっては厳しくも自由な世界を自律して歩んで行く挑戦でもあると思います。今回の研修では、単純な楽しみよりも今後の試練となっていくであろう困難を多く経験しましたが、それこそが最も貴重な経験であったと思います。そして、それを乗り越えた先にはきっと眩しい程の喜びが待っていると信じて、これからも前進して行きたいと思います。

 


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