7年目の内科医がみた米国の一般内科研修
〜Kuakini Medical Center短期研修を終えて〜
2011年1月24日〜2月18日にかけてホノルル市Kuakini Medical Centerにて一般内科および家庭医療の短期研修に参加する機会をいただいた。私は2004年に医学部を卒業した後、必修化された臨床研修を第一期生として後期研修まで修了し、血液内科を専門とし市中病院で臨床に携わっている。
「臨床医は常に初学者の気持ちでいるべきである」。医学部を卒業するときにある医師からそんな言葉をいただいたことがある。今回の短期研修はこの言葉を改めて思い出させ、非常に刺激的かつ示唆的なものとなった。その内容について感想をまじえ報告する。
1.ハワイ大学医学部とKuakini Medical Center
ハワイ大学の中でも医学部(medical school)は米国の中でも新設の部類に属し、州民130万人の医療を担う唯一の医学部として1973年に設立された。設立時の州知事の名を冠しJohn A. Burns School of Medicineと言い、JABSOMの略称がある。卒前教育においてはいわゆるproblem based learningを採り入れていることで定評があるという。いわゆる大学附属病院は持たず、学生実習ならびに卒後研修では島内の関連病院を回る。その中核施設の一つが、私が今回研修したKuakini Medical Centerである。
Kuakini Medical Centerは元々日本人移民向けの日本慈善病院として1900年に設立された。その後太平洋戦争開戦に伴う米軍接収を経て発展を続け、現在は250床の急性期病床と関連の療養型施設を備えたオアフ島内でも有数の総合病院となっている。周辺には日系移民が多数居住しており、患者さんや医療従事者も日系人がおよそ半数以上を占めている(もちろん日本語は非日系人と同等にしか話せない)。
2.内科研修
内科のobservershipとして3週間過ごさせていただいた。過去の報告によれば医学生はOSCEを受けてから配属されることも多いようだが、私の場合はchief residentからの説明ののちすぐに実習開始となった。内科にはA〜Dの4チームがあり、それぞれに2年目研修医と1年目研修医がおり、さらに実習中の医学生が加わる。私はそのうちの一チームに配属された。フィリピンとオーストラリアからの外国籍レジデント、それにシンガポール出身の医学生という構成はいかにも多民族社会ハワイを象徴していた(写真は最終日に撮ったものである。彼らの気さくな人柄に私は何度となく助けられた)。
一日のスケジュールとしては、医学生と1年目研修医は朝6時頃には回診を始め、前夜の状況や採血を確認しつつ診療を進めていく。7時前には2年目研修医も合流する。医学生がきちんと身体所見をとり、頭をひねりつつもプロブレムリストに則りアセスメント&プランを立てA4用紙のカルテ1枚近くを毎日埋めている様子は、卒前教育における日米の最大の違いを感じさせられた。
7時過ぎにレジデント室で夜勤担当医からの引き継ぎを受ける。この時間帯に週2回症例カンファも行われる。症例カンファは主訴と身体所見をプレゼンテーションしつつ診断を話し合い、最後にレジデントがスライドで疾患を概説するものである(非常に教育的であり、私も帰国後に勤務先で試みたいと思った)。
仕事の流れに戻ると、引き継ぎとカンファの後は各種オーダーを入力し、attendingとの相談をする。11:30からはICU症例カンファが毎日あり、集中治療医の前でプレゼンをする。午後は業務の続きをし、夜勤医師への引き継ぎを行えば一日の仕事は終了。おおむね3〜4時には仕事を終えていた。
その他に4日毎にon call当番が回ってくる。病棟業務以外にERからの新規入院を受けるのだが、受け持ちの上限数が決められているとはいえ当チームはたいていその上限まで患者を引き受けることが多く、俗に言う「引く」医師のようであった。連続勤務時間が30時間以内と定められているため、翌日は12時くらいまでには引き継ぎを終えて帰宅していた。
なお同院の内科ローテートはサブスペシャリティに分化されておらず、内科チームはいわゆる一般内科としての職務を果たしていた。それを補うのがサブスペシャリティの専門医であり、チームの研修医は彼らに適宜相談し抗生剤選択などを行っていた。また入院を依頼したかかりつけ医とも密に連絡をとっており、多くのかかりつけ医は毎日病棟を回診する。そもそも米国では本来かかりつけ医が病棟主治医も担当するものだそうで、最近では病棟専従医(hospitalist)へ任せっきりの開業医も多いとのことだが、患者の信頼を深める良い習慣であると感じた。
チームの受け持ち患者数はチームでおおむね5-8人程度とやや少なく、上限も定められている。ただし入院日数が短く入れ替わりが早い。診療レベルとしては日本の一般内科のそれと大きく変わらないようであった。症例の多くは虚血性心疾患・肺塞栓・脳卒中に関連しており、毎日のように院内でそれらの疾患による急変が生じていることもあわせ米国での心血管疾患の多さを痛感させられた。
カンファの話をすると、朝のカンファ以外にも座学の機会として循環器や神経内科のレクチャーがほぼ毎週行われたり、別の内科医はカフェテリアで症例のディスカッションを行う時間を設けていた。これらはいずれも地域の医師が多数協力しているとのことであった。レジデントも医学生に対し適宜ミニレクチャーを組んでおり、医師コミュニティに広く教育への志が貫かれていることに感銘を受けた。私自身も学生相手に貧血やHIVのレクチャーを行うことができた(余談だが、なぜ日本の血液内科医にHIVの診療経験があるのかを説明するのはやはり悲しいことであった)。
ICUカンファではチームで診ているICU入院中の患者を集中治療医の前でプレゼンし治療方針を相談していく。臓器別(by system)プレゼン形式を私は初めて耳にし、交代勤務の中で情報を合理的に伝える手段として有用であると感じた。ここでも集中治療医は症例ごとに1分程度のミニレクチャーを提供していた。
さらに土曜日の朝にはEBMカンファがあった。研修医が最近受け持った疾患から感じた問題点をもとに論文を紹介するというものだが、いずれも無作為大規模試験やメタアナリシスをきちんと持ち出していた。一度日本からの試験が題材となったことがあり(Cilostazol Stroke Prevention Study II)、日本での受け止めについて私に説明を求められる場面もあった。
なお興味深かった点として、ハワイ大学は卒後教育において提供する内容の軽重をはっきりさせていることを挙げておく。例えばフェローでは一般内科と老年科のプログラムのみを提供している(最近循環器のプログラムも始まったそうである)。その代わりに専門医指向のレジデントはきちんと本土に送り出すバックアップをしてあげる、というスタンスのようで、例えばレジデント向けレクチャーでは「キャリアプランの立て方」、要はいかにして本土の希望する専門研修プログラムに入るか、を丁寧にアドバイスしていた。
人口や立地からしても全ての専門治療・専門教育を充実させられるわけでもない。それを理解しているからこその総合医療への選択と集中である。大学病院ならなんでも揃えるべきではないか、と当初私は日本的視点から感じたのだが、プログラムの質の担保という点ではむしろ当然かもしれない。なによりハワイ州を担う医師教育機関としてあるべき方向性なのだろう。
欲を言えば、当期間はobservershipすなわち基本的に見学となっているのはやはり残念であった。以前は病院が実習者にも医賠責保険を用意していたとのことであったが現在はなくなっている。しかしその中で私は模擬カルテを作成したり、研修チームの協力もありそれなりの経験を積むことができた。またchief residentにかけあい患者さんへの問診を評価していただく機会を得られた。今後このプログラムの実習を希望する方は、とにかく積極性を示すべきであると記しておく。
3.家庭医療研修
最後の一週間は家庭医療(family practice)を経験することができた。Dr. Tokeshiという沖縄出身の日本人医師で、ハワイ大学医学部の第一期生でありかつ家庭医療に創生期から携わってきた。彼の実習ではexternとして患者さんとの実地診療に関わるのだが、早朝4時くらいからから入院中の全患者を回診し、緊急コールにも24時間対応する。入院が入れば診察からサマリーのディクテーションまであらゆることを行うため、ハワイ大学の学生から「道場」と呼ばれ恐れられているという。残念ながら私の実習期間中にコールはなく、新規入院も最終日の一例のみ。早起きを要しただけで「道場」らしさを味わえず、拍子抜けしてしまった。
ともあれ日々のスケジュールとしては、早朝の回診のあとは外来が始まる。多くは安定した患者さんの定期診察であるが、問診と診察を行わせていただいた。米国の外来診察室は診察台などの基本設計が日本とは大きく異なる。またDr. Tokeshiは眼底鏡をルーチンで使用していた。繰り返し患者さんを診察することでこれらに慣れ、武道のように「型」を習得できたのは大きな成果であった。
再診外来では一人15分程度の時間をとっている。処方のみの患者さんに15分かけるというのは日本では少ないが、診察室で系統的な診察をしてさらにオフィスに移動して内服状況を問診したり生活指導を行ったりしていると15分はあっという間である。しかし逆に言えばそれだけ患者数を絞ってもクリニックが成り立つわけで、外来診療に社会が要請するものが日本とは全く異なっているのであろう。
なお、さきに武道と記したが、Dr. Tokeshiは剣道の高段者であり、武道の精神からみた医療観・あるべき医師像について時間ができる都度語ってくれた。医師のプロフェッショナリズムを追求し実践する彼の熱意には心動かされるものがあった。
4.生活
期間中はKuakini Medical Center西側に面するアパートに滞在した(google mapで視認できるので興味のある方はご覧いただきたい)。一般向け2階建てアパートのうち2室を病院が借り上げており、それぞれ2人まで泊まれるようになっている。私の滞在期間中にはもう一部屋をオーストラリアからの女子学生が使っていた。設備はホテル並みとはいかなかったのは事実だが、台所もシャワーも洗濯機もあり生活上の著しい不便はなかった。食事についても周辺にスーパーのほか食堂が多数ありローカルフードを日々堪能できた。なおインターネット環境はないので今後訪問する方はモバイルwifiルータを用意するのがよいだろう。
5.英語
私は海外生活経験や留学歴はなく、TOEFLは80を超えた程度である。英語に特段秀でていたわけではない。医学書の翻訳に携わった経験がありSkypeを用いた英会話レッスンを日頃受けているとはいえ不安はあった。実際に日常会話が早口になると困る場面はしばしばあったものの、カンファやレクチャーは聴き取れたし、診療以外のことでもチームと積極的にコミュニケーションを取るよう努めた。さらに専門講師を招いての毎週木曜日に英語を第二言語とするレジデント向けのプレゼンテーション指導があり、これに参加し自身の発音の癖をいくつも指摘していただいた。結果として3週目くらいから格段に向上した実感があり、最終週の家庭医療外来では、例えばある患者さんと大相撲の八百長問題について話し合うこともできた。
言語は使用しなければ上達しない。とにかく喋って度胸を付けるという意味からも、ハワイという日本人に寛容な土地だからこそなしえた経験であった。
6.最後に
当院の後期研修プログラムにはサバティカルをとり国内外施設に派遣してもらえる制度があり、今回私はその制度を活用し本研修に加わった。将来のレジデンシー応募を志していたわけではないが、「セイントとフランシスの総合外来診療ガイド」という書籍を監訳出版したこともあり米国の臨床や医学教育に関心を持っていたのである。しかし一ヶ月間で得られた知見は予想以上に豊富であった。米国の内科レジデントと行動を共にしたり家庭医療外来を経験する機会はまさに一期一会であったし、指導医の教育に対する情熱は間違いなく今後見習うべきものであった。自身のことでいえば英語力も向上した。
しかしなにより、当院の上司に指摘されるまで自覚していなかったのだが、同じ米国の臨床、とくに一般病院の臨床を体験した(それも臨床経験をある程度有する者が)例はそう多くないはずである。医局からの派遣ならば専門的施設が多いだろうし、実習を行う時間のあるのは通常は医学生のうちで、教育システムを見学するだけでは体験を伴わず、レジデンシーは卒後年数が多いと狭き門になる場合もあると聞く。
ならばこの経験をぜひ周囲に還元していきたい、というのが私の今抱える最大の関心である。一人一人の患者さんに最善の診療を行う姿勢はもちろんのこと、当院で関わっている卒後教育や医療のあり方に生かすことができれば幸いである。まずは当院レジデントへの指導に反映させていく予定である。
研修を受け入れていただいたKuakini Medical CenterのDr. Miki、Dr. Kohatsuをはじめとするスタッフの方々とレジデント達、一週間という短い間ながら貴重な機会を提供していただいたDr. Tokeshi、プレゼンテーション講義をしていただいたDr. Little、特に日程において無理を聞いていただきご対応いただいた野口医学研究所の明石さんらをはじめとする皆様、そして多忙な中私を送り出してくれた小林部長以下当科医師に深謝致します。 |