野口医学研究所Children’s Hospital of Philadelphiaエクスターンレポート |
このたび野口医学研究所のご協力を賜り、フィラデルフィア小児病院において3週間のオブザーバーシップ研修を行いましたので、ご報告申し上げます。1日のスケジュールや入院患者の内訳は、前年度エクスターン生の塚原先生がご報告されている内容と重複致しますので、そちらをご覧下さい。
この報告書では、津田先生よりご教示頂きました「良い推薦状を拝受する為の5か条」に基づき、各項目に関して私自身がどのように振る舞ったか述べさせて頂きます。
【第1条 誠実である、嘘をつかない】
:きちんと躾を受けた日本人ならこれは必ず大丈夫だと思います。
【第2条 ハードワーカーである】
:朝早めに行くよう心がけました。オブザーバーですので主体的な診療行為を行うことはできませんでしたが、患者さんのactive problemをトピックとしたプレゼンテーションの機会を頂けるよう提案するなど、彼らのスケジュールの合間を縫って、自分に出来る患者ケアに有益な仕事を考え、それらに挑戦する姿勢を見せるようにしました。診療行為が出来ないことは承知していましたが、それでも「何か私にお手伝いできることはありませんか」と問いかけることを習慣にしました。また、日本人医師はアメリカ人医師に比べ、採血や末梢ライン留置を始めとする基本的な手技において、圧倒的に熟達した技術を備えています。アメリカ人医師達が手技に苦戦している時こそ、腕の見せ所とばかりにさらりと良い血管を探してみせました。
【第3条 にこにこしている】
:朝一番にオフィスに行ったら、笑顔で挨拶し、自分から「How are you?」と声をかけるようにしました。朝は5時起きで6時頃には病院に行き、昼12時まで回診が終わるまで立ち仕事です。彼らは飲食しながら回診していますが、私は日本人ですのでさすがにそれはお行儀が良くないなと思い、朝食にしっかりとタンパク質を取るように心がけ、昼までお腹を持たせました。夜は無理せず出来るだけ早く眠り、疲れを溜めないよう体調管理を試みました。自分の気持ちに余裕があり体調が優れていれば自然ににこにこいていられますし、また他人の疲れを察知できるようになり、そのような人たちを気遣うことができます。
【第4条 学問への興味がある】
:積極的に、患者さんや医学に関する質問をしたり、診察に加わったときベッドサイドでふと疑問に思ったことについて議論を投げかけたりしました。輸液補正は何故この条件に設定してあるのか、中心静脈栄養の速度を変更する目的はこの患者さんの場合何なのか、回診で質問することもあれば、回診で質問し損ねたことを「今朝回診で○○さんが説明していたことが解らなかったから説明して欲しい」、と午後にレジデントに訊くこともありました。指導医に時間があれば、自分から指導医の部屋を尋ね、率直に解らない項目を質問しました。レジデントと同じレクチャーに同席すれば、レジデントが挙げていない鑑別を補足するなど、いつも何らかの形で学問的な議論に参加する姿勢を見せるようにしました。
【第5条 へこたれない】
:2週目に入ったところで、私は指導医の元へ行き、「私はオブザーバーで診療行為に直接加わることは出来ないけれど、それでも何らかの形で患者さんのケアに貢献したいという意志があります。忙しい病棟なので、皆の邪魔にならず、けれど自分が役に立てる方法が無いか考えてきました。例えば、こういった方法はどうでしょうか?チームの患者さんが持つactive problemの中から一つ選び、その問題を調べてサマリーを作ります。このサマリーを回診中にチームの皆に配って、私から説明を加えれば、診療に役立つ情報を提供できると思うのですが。」と提案したところ、指導医の回答は勿論OKでした。
ちょうどその時、原因不明の低体温を繰り返す患者さんが入院しており、回診で毎朝議論に上がっていたのでこれをトピックに決めました。調べた内容を1枚のハンドアウトにまとめ、翌朝の回診中に配布し、「では皆さん、」と説明をし始めたその時です。
私が「では」と一言説明を始めるや否や、10人ほどで円陣になっていたチームのメンバーのうち、シニアレジデントの2人がそそくさとその場を離れ、別の仕事を始めるではありませんか。まるで「この人の発表は聞く前から既に聞く必要が無いと解っている」と言わんばかりの態度でした(もしかすると本人達は単に忙しかっただけで、そこまで思っていなかったのかも知れませんが、私の目にはそのように映ったということです)。聞くか聞かないかを選択する権利は彼らにあることも理解していつつも、一生懸命準備したサマリーなのですから、彼らの態度に私が内心不快であったことは言うまでもありません。聞いてくれている指導医、インターン、医学生たちに対して説明を終えました。聞いてくれた人たちは(さすが褒め上手のアメリカ人です)、皆口々に「いいサマリーね」「ごろあわせも作ってあるから思い出しやすい」など言ってくれるのですが、私は当然ながら不完全燃焼で納得がいきません。まとめてくれて有難うと言う指導医に対して私は、「機会を与えて下さり有難うございます。けれど今日の発表では、まだ私は患者さんやチームの役に立ったと心から思えていません。あと一週間あるのでもう一度やらせて下さい」と申し出ました。
その翌朝のことです。チームのメンバー全員がカンファレンス室に招集されました。「チームワークについて皆の正直な意見を聞かせてちょうだい。ここでの意見で個人がどうこうされることはないから、思っていることを自由に意見してほしい」と指導医が切り出しました。実はチーム替え以降、雰囲気がぎくしゃくしていることがありました。複合疾患を持ち、準集中管理が必要な患者さんの多い病棟だったこともあり、一部でピリピリする場面もあったのです。インターンも、シニアレジデントも、指導医も、皆大変な激務をこなしながら病棟を運営していることを私自身も再確認しました。そんな中、インターン達が「申し送りが多くて仕事が煩雑になっている」「毎日時間がなくて疲れてしまう。昨日も勉強したいことがあったけれど、帰宅したら結局勉強なんて出来なかった」とぽつりぽつりと漏らし始めました。勉強したいししなければならないのに、帰宅するとばたんきゅうだった、自分にもそんな頃があったなあ、と思い出しながら私は言いました。「私はオブザーバーなので診療の戦力にはなれないけれど、皆の力になりたいと思っています。もし勉強したいことがあるけど時間がないという場合は、私が皆の代わりに喜んで調べるし、昨日みたくサマリーにして配りますよ」。すると指導医が「じゃあ、Lowe症候群について調べてもらえるかしら?とても稀で皆よく知らないの。でも今入院している○○くんにその疑いがあるのよ」と私にテーマを投げかけました。私も馴染みの無い症候群でした。確かに教科書にも、UpToDateにも殆ど情報がありません。指導医も「すごく稀だし解明されていないことの多い症候群だから、PubMedで検索してみて」とアドバイスをくれたので、私は午後図書館へ行く許可をもらい、検索に徹しました。
私には基礎研究の経験があります。その経験が生きました。NCBI-OMIMデータベースから、Lowe症候群を検索すると、症候群と原因遺伝子に関する記述がそれぞれの参考文献とともに検索されます。OMIMに掲載されている参考文献も合計して60本程度しかありませんでした。原文がダウンロードできる論文は更に少なく、10数本しかなかったため、全て印刷し、全ての抄録に目を通しました。抄録の内容から、ヒトの遺伝子を扱っており、明瞭な実験系をもち、病態生理を説明しうるロジックを持つ論文を重要視して、活用できる論文を絞り込みました。そして、原因遺伝子、臨床像、診断、分子生物学的所見、治療の流れで、1枚のハンドアウトにまとめました。このLowe症候群に関する私の発表は、全員が一部屋に集い座って聞いてくれ、発表後は活発な質疑があり、確かな手応えを感じました。へこたれなくてよかったです。
以上です。基本的にマイペースな人間ですので、自分に思いつく自分に出来ることを無理せずに続けました。3週間自分が心地よく楽しんで過ごせる程度に顔晴(がんば)ったことが、かえって良い評価につながったのかもしれません。3週間の研修最終日、お別れとお礼の挨拶をした時、指導医は「素晴らしい仕事をしてくれてどうもありがとう。あなたのプレゼンテーションも診療の助けになりました。あなたがとても一生懸命チームの為に働いてくれたことを伝えておくからね」と言って私をハグしました。
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