はじめに
この度、野口医学研究所の米国医学研修生として、2011年9月12日より9月30日までの3週間、アメリカ合衆国ペンシルバニア州フィラデルフィアのトマス・ジェファーソン大学病院の内科にて研修させて頂いた。私の研修の目的は、アメリカのレジデンシーを体験する、アテンディングに推薦状をお願いする、というものであり、この目的を達成するために私が行ったこととその結果、および反省点についてまとめた。
全体の印象
研修内容としては、トマス・ジェファーソン大学病院側に受け入れを依頼し了解してもらう、というプロセスを野口医学研究所の方で行って頂いた後は、特に病院側に決まったプログラムはなく、完全に、研修生の姿勢と英語力およびアテンディングとシニアレジデントの対応に依存するという研修であった。結果として、わずかながらも患者さんの問診や診察、プレゼンテーションを行うことができ、また推薦状も(いい内容とは限らないが)書いて頂けるということで私にとって素晴らしい経験となったが、一歩間違えれば透明人間として3週間過ごすことになりうるものでもあった。もちろん、医師になった日本人が、アメリカの病院でオブザーバーシップあるいはそれ以上の研修を行える病院を探す、ということがとても厳しいものとなっている現在、アメリカの病院で研修ができるルートがあるということ自体が非常に価値のあることである。また、決まったスケジュールがない、アテンディングもシニアレジデントもオブザーバーを受け入れるのに慣れていない、という状況を、積極的な姿勢と英語力で自分の目的を達成する環境に変えられるだけのパワーがなければ、将来的にアメリカで実際にレジデンシーなどをやっていくのは難しいとも思われる。とはいえ、カルテは紙だがバイタル・処方・検査・画像等のあるシステム端末にアクセスできない(2011年末にはカルテも電子化するとのことであった)、チームの担当患者が各階に散らばっており一か所の病棟にいればよいというわけではない、というなかなか厳しい部分もあったのも事実であり、事前にそのことを理解し準備しておく必要があったと考えられた。
なお、トマス・ジェファーソン大学病院の内科レジデンシープログラムにアプライをしていた状態であったが、レジデンシーのインタビューの機会はなかった。事前にハワイ大学とは違うということは聞いていたので意外ではなかった。また、プログラムディレクターと話す機会もなかった。プログラムディレクターにオブザーバーが存在するという連絡をするシステムがないのか、あるいは、存在は知っていたが私が優秀でなかったのでディレクター側が特に話す必要性を感じなかったのかは不明であった。
臨床経験・英語力
研修レポートの解釈の前提として必要と思われるので私の英語力などについて少しだけ触れる。臨床経験としては、2年の初期研修と3年の専門研修(老年病科)を修了しており一般的な疾患の診療の流れは理解していた。またSTEP1、STEP2CK、STEP2CSを取得しており、医学英語もある程度理解できる状況であった。ただし、研修を始めてみると、単語として読めて理解できるが、会話で出てくると認識できない単語の多さに驚いた。英会話能力としては、1対1で相手が理解してくれようとすれば意思疎通は可能だが、相手に私のことを理解する必要性がない状況では意思疎通がやや難しいというレベルであった。また、アテンディングラウンドでの医学的会話は7割程度理解可能だが、ネイティブ同士の日常会話は5割も理解できなかった。会話が理解できない、ジョークはさらにわからない、こちらの言いたいことも伝わらない、ということは充分分かっていたつもりだったが、やはり辛かった。今後英語を勉強し続けるモチベーションとして非常に重要な経験だった。
レジデンシー体験・推薦状
研修初日に指定の場所に行くと秘書のような方が各チームに連絡して、受け入れ先を調整して下さった。配属されたチームは4つの内科チームのうちの1つで、肺炎・尿路感染症など一般内科疾患を担当しており、アテンディング一人、シニアレジデント(3年目)1人、インターン(1年目)1〜2人、医学部4年生(最終学年)1人、医学部3年生2〜3人、薬学部生1人で構成されていた。アテンディングはオブザーバーが来るということを私が挨拶して初めて知ったようであった。なお、最初のアテンディング、シニアレジデントは2週目いっぱいで終了し、3週目からそれぞれ新しいアテンディング、シニアレジデントとなり、またその他のメンバーも2週目の途中で入れ替わることとなった。悔やまれるのが、3週間もあると思って最初の1週は推薦状をアテンディングに頼まなかったことである。アテンディングが2週間で交代すると聞いて、あわてて2週目の初めにお願いしたところ、症例を担当させてもらえることになった。今後研修に行かれる方には、最初にアテンディングのスケジュールの確認と推薦状の依頼を行うことをお勧めする。
ということで最初の1週間は担当患者がなく、研修医や医学生について回って見学した。カンファレンスでも毎日1〜2回程度は発言したが、担当患者がなく症例プレゼンテーションはできなかった。2週目、3週目は1〜2症例担当し、毎朝の診察およびプレゼンテーションを行ったが、端末にアクセスできないことから、毎朝バイタルや採血検査結果を知るために、インターンや医学生にお願いしなければならないのが苦痛であった。また、プレゼンテーションを行ったとしても、英語力が不十分であること、端末にアクセスできないことなどから、ディスカッションの相手としてみなされず悔しい思いをした。それでも、これまで英語で症例プレゼンテーションをしたことがなかったため、非常に貴重な経験となった。また、医学生が積極的に調べ物をしてラウンド後に発表していたので、これにならって何度か同様に発表したのも良い経験となった。結局、1人目のアテンディングには2週目の終わりに、「英語が下手なせいかプレゼンテーションが下手だった。推薦状は書いてもいいがそこそこの内容でしか書けない。」といわれた。また、2人目のアテンディングには、「喜んで推薦状を書く」、とは言われたが、現時点では内容は不明である。
一日の流れ
朝は7時頃病院に行き、担当患者を診察して、8時半ごろからのアテンディングラウンドに臨んだ。午前中はほぼラウンドで終わり、12時からは研修医向け昼食付きレクチャーであるヌーンカンファレンスに参加した。午後は、学生と話をしたり、インターンがレジデントにレクチャーをするのに参加したりした。そして15〜16時頃からアテンディングを交えたチームミーティングに参加した。17時には、チームメンバーが当直チームに引き継ぎを行っているのを尻目に帰宅し、寮で調べ物をしたりプレゼンテーションの準備をしたりした。一日中集中が必要でかなり疲労したため、毎日21〜22時には就寝していた。救急当番は4日に1度あったが、英語力の問題と、学生・研修医に優先的に症例が割り当てられたことから、問診・診察の機会は非常に少なかった。
朝早く行くこと、夜遅くまで残ること、土日も病院に行くこと、により勤勉さをアピールすることも物理的には可能であったが、正直なところ、私の英語力と端末にアクセスがない状況を考えると、意味を見出すことができなかった。むしろ、午後時間をもてあますこともたびたびあった。処置などがあれば見学し、学生に時間があれば話し相手になってもらったが、それ以外は調べ物などをして時間をつぶしていた。チームの担当患者が各階に散らばっており、ある一か所にいればチームメンバーがいるという状況ではなかったというのも理由の一つであった。だが、オブザーバーの研修内容はアテンディングやシニアレジデントの裁量で決められるようであり、積極的姿勢や英語力があればこれも改善の余地があったのであろう。なお、医学生が、端末を見せてくれたり、ミーティングに呼んでくれたりと非常に親切であり、彼らの存在に救われる部分がかなりあった。
アメリカでレジデンシーをする意義
アメリカでレジデンシーをする意義に関しては個々によって状況がかなり変わると思われるので詳しくは述べない。ただよく言われているように、アテンディングから研修医・医学生への、また研修医から医学生への教育姿勢は非常に印象的であり、個人的には、今回の研修でアメリカでのレジデンシーを行いたいという決意を新たにした。
最後に
ここまで簡単に研修内容に関してまとめた。この研修レポートが、今後トマス・ジェファーソン大学病院内科で研修をされる方の参考になれば幸いである。最後に、お忙しい中フィラデルフィアにて研修に関する素晴らしいアドバイスを下さった津田武先生、英語の拙い私に親切に対応して下さったトマス・ジェファーソン大学病院のスタッフの方々、そして今回の貴重な研修機会を与えて下さった野口医学研究所の皆様に心より御礼申し上げたい。
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