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アラムナイ活動及び研修レポート

TJUでの実習レポート

八木隆志

 4年生の春休みの2013年3月下旬に、フィラデルフィアのトーマスジェファーソン大学病院(以下TJU)で一週間の研修に参加させて頂きました。
 私には、将来アメリカの病院にてレジデンシープログラムに入るという目標があります。今回の研修は、米国の医学生のレベル・米国の医学教育の内容・米国の病院の様子を実際に知ることにより、日本の医学生・医学教育と比較し、現在の自分に何が足りないのか今後何を意識して勉学に取り組むべきか、延いては未来にレジデンシープログラムに入るためにはどのようなレベルに到達し何が必要なのかを知ることを目的に参加致しました。前述の点を中心に、レジデンシープログラム参加を目指す医学生の参考になるよう以下報告致します。
 先ず米国の医学生のレベルですが、米国医学生の能力は高く、日本の卒後1・2年目の研修医が米国医学生の3・4年生に相当するという話しを日本に於いてしばしば耳にします。実際に多くの米国医学生・研修医と接した結果、上記の例えが正確かどうかは分かりませんが、やはり臨床能力に関しては日本の医学生とは全く比較にならない程米国の医学生の方が高いです。しかし医学知識そのものに関しては大きな違いはなく、むしろ病態生理や医療機器のメカニズム等の知識に関しては日本の医学生の方が高いと感じました。例えば、MRIのメカニズムを米国の医学生は説明出来ませんでした。しかし、医療を行う上でMRIのメカニズムを知っている必要があるかというと、適用禁忌さえ理解しておけば必ずしもそんな必要はないと私は思いますし、それよりもどの疾患にMRIが有効なのかどうやって読み取るのかという臨床的知識の方が重要であり、米国医学生はその点に長じていると思います。USMLEstep1において日本の受験生が病態生理に関する出題に関しては高得点を得る事実ともこの点は合致すると思います。日米間で医学知識に差はない若しくは日本の医学生の方が細かい点まで理解しているかもしれませんが、実際にそれを活かし利用する臨床能力となると米国医学生の方が遥かに高いです。
 次に、医学教育の内容です。上述の日米間の違いは、メディカルスクールでの臨床重視の教育によって生じたものです。米国のメディカルスクールは大学を卒業した後の4年制(M1〜M4)ですが、M1の時点(日本の医学部の3年生に相当)から模擬患者を用いた診察の訓練が始まります。ICM(Introduction to clinical medicine)、EBL(Evidence based learning)と称し日本のいくつかの医学部でも行われているペーパーでの症例設定に基づいた必要な検査や鑑別診断・治療法について議論するグループワークも行われます。日本ではこのグループワーク止まりであり、問診・診察の訓練は4年次の最後にOSCEに向けて短期間のみ学生同士で練習を行うだけであることと比べると大きな違いです。そして日本の医学生が日頃自習室等で利用している小部屋を一時OSCEのために利用している現状に比し、TJUでは臨床訓練のための5階建ての立派なシミュレーションセンターを構えています。シミュレーションセンターには40室ほどの全てモニター付きの診察室が設けられ、日常的に医学生はその診察室を用い模擬患者を相手に問診・診察のトレーニングを行っています。更には、模擬患者は一時間当たり27$を支払われ雇われている役者であり、150人程度が登録されていること、彼らはそれぞれなんの病気を演じるかが一定程度決まっているためその病気を演じることに卓越しています。更には、シナリオ別の訓練室も設置されており、ICU、オペ室、入院病棟の一室、一般クリニック、最も驚いたことには家のセットまでありました。家のセットは、家庭医の練習用ということで、キッチンや居間やシャワー室まで完備されていました。その中で学生がどのように振舞うかまでモニターされている訓練であり、さらには障害物を設置したり冷蔵庫の中の食品の内容まで設定されていたり流しの下に酒類を隠すなど徹底してリアリティーが追求されています。これら全て録画されており、学生に映像を見せることでフィードバックしてフォローアップが行われます。手術手技の訓練部屋や気管挿管・静脈確保・腰椎穿刺などの手技練習用の人形も数多く用意されていました。規模もかけているお金も日本の医学部とは比較になりません。ここまで立派な設備はTJUが全米のメディカルスクールの中でも特に臨床教育を重視しているためでもありますが、どのメディカルスクールも同様の設備を備えており、日本の医学部よりも臨床教育が進んでいます。飛び入りでM2の授業にも参加させて頂きましたが、整形外科領域の身体診察の各種テストを小グループに分かれて実際に練習するというものでした。日本の医学部では、前十字靱帯の前方引き出しテスト等、教科書で名称を覚えるにとどまることを実際に練習し、しかもこの時も模擬患者が10名程参加していました。なお授業全体の11%がTJUではこのような臨床訓練に割り当てられています。
 続いて座学に関してです。M1・M2(日本の3・4年生)は膨大なハンドアウトを各セクション毎に渡されます。生化学・解剖学などの基礎医学から始まり、続いて呼吸器系・循環器系などの系統別講義に移行する点は日本と同じです。ただしそのハンドアウトの内容は、症状を元に鑑別診断を考えさせる内容が多く含まれており、日本の医学教育よりもこの点でも学生に臨床の見地から考えさせる構成になっていました。また、日本の医学部では授業毎に先生がプリントを配ったり配らなかったり、またフォントも思い思いのものであるのに対し、セクションを通じて使用されるハンドアウトが渡されることも大きな違いです。ハンドアウトがとても充実しているため、米国の医学生の多くは教科書をあまり買わず、必要な時に図書館で調べるということです。しかしハンドアウトは量が膨大なため、レビューブックを購入する学生は多いです。彼らは、7月から新年度が始まるので、それまでにM2生はUSMLEstep1に合格する必要がありますが、意外なことに私が訪れた3月末の時点で殆どの学生はstep1に向けた対策を始めておらず、私がFirstAidを持っているのを見かけると、自分も近々それを買わなければいけないと声を掛けられることがありました。彼らが3月末時点でstep1に取り組んでいない理由は、メディカルスクールの授業と試験が忙しいことが第一ですが、そもそも授業自体がstep1ではここが出題されやすいと説明してくれたりstep1に関連していること、更にstep1を受ける前に8週間の休みが設けられており、この時期に集中して勉強に専念できるからです。私達日本人が隙間の時間をみつけてかなり前から準備をしている現状と比較してとても恵まれています。また、日本の受験生ほどに、なんとしても高得点を取らなくてはいけないという切迫感は米国の学生からはあまり感じられませんでした。
 続いて病院内です。Internal Medicine Inpatient Rounds, Emergency Medicine, Outpatient Family Medicine, Outpatient Pediatrics に参加しました。多くの日本人レジデントの体験記で、英語の聞き取りが困難、カルテの字が読めないという報告を読んで参りましたが、実際にまさにその通りでした。参考までに、私はCNNのニュースならばほぼ完全に聞き取って理解できます。しかし病棟では5〜6割程度の理解力に落ちてしまいました。医師と患者間の会話は完全ではないもののついていけるのですが、医師同士の言い渡しなどは非常に早くかつ省略単語が多く用いられること、また米国の保険事情などの社会文化的知識を背景に持ち合わせていないことが主たる原因です。人間は知っている内容だからこそある程度予測も立てて聞き取っているからです。また、思えばCNN等は綺麗な英語で聞き取りやすくハッキリと発音されており、聞き取ることが出来て当たり前であることに気が付かされました。日本ではそれ以上のレベルで英語を訓練する機会にあまり恵まれませんし、米国の病院にとってコミュニケーションに難のある日本人を敢えてレジデンシープログラムに採用しようというインセンティブが働くわけもなく、この点はかなり厳しいと思います。私は早速、医学省略単語帳を現地で購入しました(ex. C/Oはchief complaints, qnはevery night等)。そのお陰もあり、一昨日よりも昨日、昨日よりも今日と僅かであっても前日よりかは理解が深まっていくようになりました。また、今回の研修に同行されていたWHOの蒲先生から国際的に活躍するにはともかく笑顔と挨拶が大切であること、怖気つかずにどんどん発信していくことが重要だというアドバイスを頂戴しましたが将にその通りだと実感しました。医師はチーム医療であり人を相手にする仕事ですから、この人がいると明るい、雰囲気が良いと思われることが大切ですし、会話の全てを理解しきれていなかったり、完璧な文章が言えないからと黙ってしまうのではなく、せめて単語だけでも発することで、医学的には理解していることを周囲に知らせることが出来ると思います。日本人はそうやってアピールしながら生き残っていく中で、徐々に現地の英語に順応していくことが必要だと感じました。
 次に全般的な内容です。アメリカではフィランソロピーとボランティアを行う文化が形成されています。TJUの立派な設備は企業や卒業生の寄付によって維持されています。TJUには、学生が運営するJeffhopeというホームレスに無料で診察を行うボランティアグループが存在します。Jeffhopeは、特定のクリニックを構えているのではなく、シェルターに出むいたり、キャンピングカーを用いて路上で診察を行います(アメリカの他のメディカルスクールでも似た活動が行われています)。模擬患者ではなく実際の患者の診察を行い、カルテを書き、今後の治療方針を考え指導医にプレゼンテーションを行い、薬を処方するのですから学生にとってはとても勉強になります。勉強へのモチベーションも高まり、至らなかった点を反省し、医学知識を臨床へと応用する素晴らしい訓練になります。また、ペンシルバニア大学やドレクスラー大学など近郊の大学からも学生が集まり、薬学部生など他部門の学生との交流もありそれぞれの強みを生かし互いに長所を学ぶ良い機会にもなっています。これもM1から自由に参加可能で、全く参加しない学生もいれば、頻繁に参加する学生など差はあるものの、大半の学生が参加しています。M3以上になれば病棟で同様に患者の診察をするようになりますが、M1からこのような機会があることに大変驚きました。日本のM1(3年生)ではこなせないと思います。M1から参加して診察を行うことを可能にしているのは、アメリカには教える文化が根付いているためだと感じます。上級生(M3/M4)が下級生(M1/M2)を指導し、上級生にはレジデントが、更にその上に指導医がついていて指導します。私も問診を行い、カルテを書いてプレゼンテーションを行いましたが、問診の際に足りない所があればその場で上級生がつけ加えてくれて、カルテの書き方の要領が悪かったらその場で書き方を教えてくれて、プレゼンテーションもフォローがあったお陰でこなせました。自分の力がまだまだだと冷や汗をかきながら反省していましたが、私を指導してくれたM3は”You did a very good history taking. Good job” と労ってくれました。実際の私の問診が誉めるに値するものだったとは個人的に思えませんが、彼の一言があるからこそ次も積極的に取り組んでいこうと思えますし、教え育てる文化はこういうところにも現われていると思います。この環境下にあったら臨床能力が伸びるのも当然のことと思えます。病棟でも同様で、各部門とも短期間の滞在にも関わらず、また私達1人1人の学生は事前に決められていたのではなく、その場で割り当てられたレジデントについて病院を回ったにも関わらず、レジデントは当たり前のように熱心に指導をしてくれました。前述のM2の授業に飛び入り参加させてもらった際も、教授は私のところにもやってきて個別に指導をしてくれましたし、グループの学生は私がまるで昨日から一緒にいたかのように話しかけてきてお互いに教え合いながら練習出来ました。将に”Teaching is learning” が当たり前のこととして行われていると思います。他に感じたこととして、フィラデルフィア全体でも言えることですが、TJUは国際色が豊かです。医学部生にも医師にも韓国系、中国系、インド系等の人種が多く見られます。ただし、日本人は数人しか見ることが出来ませんでした。アジアの諸外国では海外留学者が増加しているのに対し、日本人の若者の内向き志向が強まっている風潮を憂う論調を新聞等でよく目にしますが、将にその現状が見てとれました。確かにアメリカのレジデンシープログラムに入りそこで生き残っていくことは簡単なことではないですが、私も安全で楽な道に逃げたくはないと思います。母国語以外でコミュニケーションを取ることは簡単なことではないですが、アメリカ人も外国語を学んでいることを今回の研修では知りました。前述のJeffhopeの際に、英語を全く話さないメキシコ人に、M1の学生2名が世間話も交えたスペイン語で対応している姿には大変驚きました。彼らほど流暢にスペイン語が話せる学生はアメリカでも少数派ということでしたが、ヒスパニックの移民が多いこともあり、アメリカの学生が最も多く学ぶ外国語はスペイン語です。TJUにも任意選択のスペイン語の医療の授業が設けられています。アメリカ人は英語がどこでも通用するから外国語を学ばなくていいというのは、完全に勘違いでした。
 最後に全般的な総括として、日米共通にきっと世界共通に、医学は個人の努力がそのまま社会全体の利益へと直接的に還元されやすい学問だと感じます。そのためとても遣り甲斐があります。日本国内にとどまらず、世界で活躍出来たら素晴らしいことだと思いますし、今回の研修ではその為に何が必要かを数多く学ぶことが出来ました。優秀な米国の医学生の友人が出来たことも、日本の他大学の優秀な学生達と知り合えたことも貴重な財産です。浅野先生を始めとする野口医学研究所の皆様、トーマスジェファーソン大学の皆様には、このような貴重な機会を設けて頂き本当に感謝致しております。今後の日本での勉強も、今回の研修で得た知見を加味し照らし合わせることにより、より有意義にしていくことが出来ます。また将来レジデンシープログラムに入るため、及び入った後にどのようなレベルが必要かを把握するという目的も十分に達成することが出来ました。この度は、本当にありがとうございました。

 

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