米国財団法人 野口医科学研究所

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TOP  財団設立20周年記念誌

寄稿
 野口医学研究所設立20周年に際して
    〜
“L'important, c'est de participer”
                                    野口医学研究所 専務理事
                                      トーマスジェファーソン大学 医学部 助教授
                                      A.I.DuPont小児病院スタッフ 小児循環器専門医
                                      津田 武

米国財団野口医学研究所設立20周年を心からお慶び申し上げます。


ちょうど19年前に信州大学医学部を卒業して母校の小児科で医者としての研修を始めた私にとって、野口医学研究所の歴史は、私の医者としての歴史(キャリア)とも多分に重なり合います。1988年の春、4年間の卒後研修を終え大学の医局に戻ってきたのですが、今度は自分が新しい研修医を指導しなければならない立場になりました。大学病院と関連病院での4年間自分なりに一生懸命勉強して学んできたけれど、どうしても自分自身を納得させるだけの自信が持てませんでした。自分は本当にこのままでいいのかという、押さえがたい「不安」と「危機感」を常に感じていました。自分の理想とする医師像に永遠に近づけない、もっと成長したいのに今の環境ではどうしてもそれができないという苛立ちがあったのだろうと思います。「アメリカで臨床研修をして自分自身が納得できる立派な医者になりたい」と当時麻布十番にあった財団の東京事務局を訪ねたのが15年前の秋だったと記憶しています。そこで初めて出会ったのが、現在の理事長である浅野嘉久氏であり事務局長の鈴木眞奈さんでした。


何かアメリカ臨床留学への近道があるのではと期待して松本と東京を何度も往復しましたが、逆に浅野氏のほうから「アメリカ臨床留学へのプログラムを作るのに協力して欲しい」と依頼され、それから野口臨床留学プログラムへの試行錯誤が始まりました。1989年の3月に大学の医局を辞め、約2ヶ月間浅野氏と一緒に野口医学研究所の事務局で働くことになりました。当時の野口財団に無かったものは留学プログラムだけでなく、基礎財産も全くなくこれで本当にやっていけるのだろうかと思いましたが、不思議と不安は感じませんでした。今までの「医局」というしがらみから解き放たれ、医者になってから初めて感じる「自由」な生活を謳歌していました。「自分のこれからの成功は、自分の努力にのみ依存する」、この単純な当たり前の原理が世の中にあるのだと改めて認識しました。しかしながら現実は厳しく、財団活動基金のための寄付は思うように集まらず、医者であった自分が医療の世界以外では如何に無力であるかを感じました。自分自身経済的にも非常に苦しい時期でしたが、非常に貴重な経験ができたと思っています。浅野氏と直接財団の黎明期の苦楽を共にした、貧しかったけれど楽しい一時期でした。その後渡米し、翌年には待望の小児科レジデント・プログラムに入ることができ、野口財団の推薦も受け現在全米No.1と言われるフィラデルフィア小児病院で小児科レジデント、小児科循環器フェローのプログラムを無事終了でき、両方の専門医の資格も取得できました。現在はフィラデルフィアにある医科大学で循環器系の基礎研究に従事する傍ら、小児病院の心臓専門医として臨床や学生やレジデントの教育研修に携わっています。


アメリカに来て当初の目的であった臨床研修を終え、専門医として今度は自分が若い人達を指導する立場になりましたが、相変わらず毎日が厳しい生存競争に曝されています。プロフェッショナルとして地位が上に行けば行くほど競争が激しくなるのがアメリカ社会の常ですから、それは蓋し当然と言えます。にもかかわらず、私は今でも毎日何かを学ぶことの出来る喜びを実感しています。最近では、本当の喜びは実は他人に与えることにより得ることができるものだということが自然に解ってきました。現在の自分自身が自分一人の努力だけで成長したのではないと言うこと、多くの人々の無償の協力や善意や励ましがあって初めて成就できたものだということが、今になってようやく理解できてきたような気がします。これまで20年の間、野口医学研究所には、実に多くの人が集まりそして多くの人が去って行きました。私が今でもこの財団に残っているのは、私がこれまでに得た経験をこれからアメリカを目指す若い人たちに是非とも役立てて貰いたいと思うからであり、またそれが自分の喜びであるからです。かつての自分がそうであったように、若い人達は勇気をもって目標に立ち向かっていって欲しいと思っています。


“L'important, c'est de participer”「大切な事、それは参加することである」。

近代オリンピックの父ピエール・クーベルタン男爵の言葉です。「参加」は、それぞれの自発的な「奉仕」の心から生まれるもので、決して他人より強制されるものではありません。私が「野口」に「参加」するのは、「参加」することにより更に多くの物事が学べるからであり、それにより多くの喜びを感じることができるからです。野口医学研究所は、この20年間で著しく成長しました。これからも、より多くの人々が自発的に「参加」できるような財団に育てていきたいと願っています。