おめでとうございます
このたびは野口財団の創立20周年を迎えられるということでまことにおめでとうございます。私自身は表題にありますように野口財団さんとは約10年のお付き合いさせていただいてもらっております。一番最初は、1995年に私が渡米した折に財団と関係をもたれている米国の医師の方にいろいろ米国医療についてお話いただいたのが最初でした。私自身、名古屋に生まれ育ち(浅野さんと故郷が同じです)、井の中の蛙といった状況でしたので米国において日本とはまったく異なる制度の下で、医療が行われていることを直接見聞きさせていただいたことは非常に貴重な経験であり、私が現在のように「医療経営」「医療制度・政策」の研究者になった直接のきっかけでもあります。
ここで、少しわき道にそれますが、紙面もありますので私自身の紹介と、医療について思うことを若干述べさせていただこうと思います。
私のご紹介
私自身は、1961年に名古屋に生まれました。昭和62年3月に名古屋大学医学部卒業、臨床医を経て、平成7年9月 米国コーネル大学薬理学研究員その後、外資系製薬企業、国内製薬企業のマネジメントに携わりました。この米国滞在中に野口財団さんとの縁ができたのはご報告申し上げたとおりです。帰国し、製薬企業に勤務すると同時に、これもさきほどご報告申し上げましたように、日米の医療および医療マネジメントの差を実感しましたので、慶応大学大学院 経営管理研究科で医療政策、医療経済、国立病院管理研究所医療政策部で病院管理の研究に取り組みました。その後、平成12年5月から昭和大学医学部公衆衛生学専任講師になり、同時に英国の国立レスター大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得しました。そして、現在株式会社大和総研主任研究員、名古屋大学医学部医療情報部客員研究員・非常勤講師、東京大学薬学部大学院ファーマコビジネスイノベーション講座研究員・非常勤講師、平成15年4月から多摩大学大学院経営情報研究科客員教授をしております。そして、野口財団さんとは、顧問会議副議長といった形でお手伝いさせていただいております。
実は、書籍も多く出版しております。
主なものは、医師は変われるか―医療の新しい可能性を求めて―(はる書房)、糖尿病療養指導基本トレーニング(日本医学社)、MBA10人の選択−進化するキャリア−(はる書房)、医者になるまでなってから(CMC)、日本の医療はそんなに悪いのか?−正した方がいい30の誤解−(薬事日報社)、「賢い医者のかかり方、治療費の経済学」(講談社α新書)、「医療マーケティング」(日本評論社)、「医療バイオ、医療IT入門」(薬事日報社)、21世紀の医療経営(薬事日報社)編著。「看護が変われば医療が変わる」(はる書房)編著。
共著:治験のローカルマネージメントと品質保証・品質管理 新GCP下における治験のデータマネージメント 植松俊彦編 (ライフサイエンス社)、医療ビジネスの現状と問題点 医療ビッグバンの基礎知識(内科学会専門医会編)
実は、このように多くの書籍を出版できるようになりましたきっかけも、はる書房さんを、野口財団の澤田さんがご紹介してくださったことがきっかけのひとつになっております。
さて、専門である医療政策について多少書かせていただきたいと思います。これは野口財団が日米の医学・医療の交流を主業務として行っているので非常に重要なことであると考えています。
従来、医療では公的な部分が強調されすぎるあまり、経営的な側面あるいはマネジメントといった議論が軽視されてきました。
医療をつかさどるもの
日本の医療業界では、価格競争はみられませんが、サービス面での競争は、既に医療機関間では激化しており、競争は存在していいます。
民間がになう医療というと、米国の医療を、公的医療というと英国を想像される方が多いかもしれません。日本は、というと、皆さんが周りを振り返っていただけばわかるように、中心は民間医療です。しかし、ここで特記すべきは、医療という財が日本では、価値財(価値財とは、公共財、私的財とは違った考え方であり、価値財とは、市場メカニズムを通じるだけでは社会的にみた必要量まで、十分に供給(消費)されない恐れが強いため、公共福祉の立場から公的セクターが強制、説得、費用保障によってでも割り当てる財をいいます)とみなされ、公的な介入が多いために、多くの消費者が医療のみならず医療機関が公的なものだと思っており、場合によっては、公的私的の意識さえなく“お医者さん”という、公正無私な存在と同一視してしまっている事さえあることではないでしょうか。米国ではまったくそんなことはありません。場合によっては、医師の側も、医局派遣で人事の殆どが決まってしまう事もあいまって、自分の所属が公的な施設なのか私的な施設かも関心がないことがおおいです。いいかえれば、消費者である患者のみならず医師、医療機関も、自らを公的と考えているふしがあります。
しかし、実態は異なります。医療はサービス産業に属するのであり、全国の一万弱の病院中、多くは民間病院であり、診療所は殆どが民間施設になります。
ここで営利、非営利を考え直したいのであるが、非営利といっても、医療法人の場合は、多額の補助を得ている社会福祉法人とは異なり、従業員の給料、管理費、設備費等は、自ら“稼ぐ”必要があり、その意味で、医療法人の経営者には、経営のセンスが必要とされます。言い換えれば、医療機関も収益を上げる事は必要とされているわけで、この点では営利も非営利も大差ありません。
大きく異なるのは、資金の調達と、配分についてである。営利機関では、配当、あるいは株式会社であれば株式価値の向上といった方法で、投資家に還元ができます。しかし、非営利機関である医療機関においては、配当の形で、資金配分ができないので、直接金融での資金調達に難が生じます。また、病院等が高度成長を終えていることが衆目の知るところとなっている現代では、銀行などの金融機関からの間接金融は難しくなってきています。一方の、直接金融では、米国では、病院債という形での資金調達がはやり、日本でも最近、診療報酬料を債券化して、キャッシュを調達するという試みもされています。しかし、これなども、大局観にたった経営方針ではなく、医療機関の苦しい台所事情を反映しているものと考える事もできます。
チェック機構の問題
株式会社には、いくつかのチェック機構が存在する。日本の会社ではそれがうまく機能しておらず、最近、特に東証一部上場企業を中心にして、株主代表訴訟の話題には事欠かない。この流れの中で、株式会社の商法上の“機関”である取締役会、監査役の機能が見直されています。これは米国でもエンロン事件があったことは記憶に新しいと思います。一方、公益法人では、この部分を行うのは、理事会、監事であるが、この働きが極めて弱いのが現状です。この意味で、医療機関では経営をOpenにする必要があります。
この透明性の議論には、医療内容のみでなく、法人であれば財務状況も含むべきであろう。銀行と同様、病院の倒産も社会的な影響(主として近隣、入院患者への影響)は大きいということが強調されます。
機能分化の問題
経営学の教えるところでは、企業は得意分野(コア)を持ち(見つけ)、それに特化していくことにより、経営の効率を上げ、ひいては会社の価値を極大化するのが望ましいとされます。もちろん、これは、主として株式会社においての理論ですが、実際にも、営利、非営利を問わず、米国の医療機関はかなり特化してきています。これは、専門分野という点でもそうであるし、急性期、慢性期といった点でもそうです。
一方、日本の医療機関はかなり未分化です。いい例が、病棟であり、現在のところ、患者が重症、軽症(ICUにはいるような超重症は除く)を問わず同じ病室に入院している例があり、業務の非効率につながっていると思われます。厚生労働省も2003年8月に、大きく急性期をになう「一般病床」と慢性期を担う「療養病床」の区分をはじめました。もし、効率化というのがキーワードのひとつであれば、日本の病院もこの概念を取り入れ、機能分化していくべきでしょう。そのためにはマネジメントの考え方も重要です。
米国医療と日本
そういった中で、米国医療に学ぶものは、制度面では必ずしも多くないかもしれませんが医療の現場では多くあると思われます。野口財団の協力で米国に留学される多くの医師の方々はぜひ、医学だけでなく医療の部分も学んでほしいと思います。その意味で、研究者としての留学でなく臨床家としての留学という数少ない機会を提供いただける野口財団には今後とも大いに発展を望みますし、協力させていただきたいと思っています。
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